
【Swathi Mutthina Male Haniye】 (2023 : Kannada)
題名の意味 : 真珠の雨粒
映倫認証 : U
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 11月24日(金)
上映時間 : 1時間41分
監督 : Raj B. Shetty
音楽 : Midhun Mukundan
撮影 : Praveen Shriyan
出演 : Raj B. Shetty, Siri Ravikumar, Balaji Manohar, Surya Vasishta, Rekha Kudligi, J.P. Thumminad, Sneha Sharma, Gopalkrishna Deshpande, 他
《 プロット 》
山間の村に、死期の迫った人たちの入所する緩和ケア施設があった。プレーラナー(Siri Ravikumar)はそこでカウンセラーとして働いていた。彼女は毎日患者たちの苦悩や死別の悲しみに直面し、気が滅入ることもあったが、何とか感情をコントロールしていた。また私生活面でも決してハッピーではなかった。夫のサーガル(Surya Vasishta)は多忙でプレーラナーと心を通わせる時間も少なく、彼女は毎日機械のように家事をこなすだけだった。プレーラナーはサーガルが不倫していることも気付いていたが、感情を押し殺すことが成熟した大人の証だと信じ、黙認していた。
ある日、この施設にアニケート(Raj B. Shetty)という風変わりな男が入所して来る。彼は住所や保護者などの基本情報の提出を拒み、カウンセリングも必要なしとしていた。説得の末、何とか住所や保護者名は知らせてきたが、カウンセリングはやはり拒んでいた。それでプレーラナーは無視することにしていたが、施設を経営する医師マノーハル(Balaji Manohar)に指示されたため、アニケートの部屋を訪問する。面会するなり、プレーラナーはアニケートに特別な雰囲気を感じる。彼は消化管癌を患い、余命2,3か月なのに、そのあっけらかんとした態度が他の患者たちと違っていた。
しかし、プレーラナーはアニケートを快くは思っていなかった。ある日、彼女は屋外で昼寝しているアニケートを見つけ、不快に感じる。だが、彼の傍らにあった手記を読み、アニケートに対する印象を改める。それは施設の窓から見える湖の美しさと生命力を謳った詩だった。プレーラナーはアニケートと面談を重ねるにつれて、自分にも活気が蘇ってくるのを感じていた。

プレーラナーはアニケートの書いた詩を額に入れ、彼にプレゼントする。お返しに、アニケートはプレーラナーに鉢植えの花を贈り、それは施設の庭に植えられる。
ある日、プレーラナーの母(Rekha Kudligi)がやって来る。しかし、サーガルは挨拶もほどほどで、歓迎している様子はなかった。プレーラナーは母をアニケートに紹介する。すると二人はすっかり意気投合する。母は汁カレーを作ってアニケートにご馳走する。
ある夜、アニケートが苦痛に苦しむ。プレーラナーは医師ギーターに連絡し、苦痛緩和のため、麻薬を処方してもらう。アニケートの苦痛は収まったが、翌日、プレーラナーはマノーハルから「君は医師か! なぜ麻薬を処方した!」と責められる。
その後、門番のプラバーカル(J.P. Thumminad)がアニケートのために魚カレーを作る。アニケートはそれを食べて満足する。
そうこうしているうちに、アニケートも死期を悟ったのか、プレーラナに「私の秘密を話す」と告げる、、。
《 コメント 》
・ふうむ、ラージ・B・シェッティ監督のことだから、そこそこ面白いものを見せてくれるとは思っていたが、期待を裏切らない良い映画だった。深い、美しい、そして優しい。私の心には刺さった。しかし、興行的にはヒットからほど遠い結果となりそうだ。
・早速テーマから入ると、メインテーマは「美しい死とは?」ということだろう。緩和ケア施設という死期の迫った人々の集まる場で、登場人物は必然的に死を意識し、憂い、悲しみ、恐怖を抱くが、一人、アニケートだけは飄々としている。その差異は何かというと、他の患者と違って彼だけが「死への準備」ができているということだろう。
・死を恐れる理由は、この世の様々なものとの関係が断たれてしまうこと。その最も大きな軛となるのが家族だろう。インド人にとって、家族とは最大の強みであると同時に、最大の弱みでもある。本作に描かれた施設の患者たちも、自分が死後に残す家族たちのことを思い、悲しむ。そして憂いのうちに没する。それは「美しい死」とは言えないだろう。だがアニケートは「名前もなく、家もなく、ただ人として死んでいく」と、悠然と構えている。死への準備ができているということだろう。それは彼の他の台詞、例えば「私には明日はない。今日を生きている」にもよく表れている。
・しかし、このアニケートの心的態度は彼自身のオリジナルではないだろう。インドにはすでに古代の昔から四住期という生活の規範があり、家住期を過ぎた者は家族を離れ、死への準備をすべしとされている。とは言っても、それは昔も今も凡夫にとってはハードルの高い規範で、ほとんどの者は家族べったりで、むしろそんな規範を意識している者などほとんどいないだろう。しかし、それは純粋にインド伝統の考え方に違いなく、今なお有効な死の恐怖の克服法かもしれない。ラージ・B・シェッティ監督は現代のインド人に何か思い出させようとしているように思えた。(ただし、アニケートはまだ若く、映画中で言及されていなかったが、おそらく妻子はいないようなので、彼は人生のかなり早い段階から遊行者としての生を選んだのかもしれない。)
・ちなみに、「アニケート(Aniketh)」という名前は「家がない」という意味で、これは世界(特定の在所ではなく)に遍在する神(ヴィシュヌやクリシュナやシヴァ)を指すことが多いが、本作の「アニケート」はまさに「家なし」という意味だろう。
・「美しい死」、「死への準備」というのは、実は死の省察ではなく、裏を返せば「生」というものの省察でもある。「生」といっても、その人が死ぬまでにどんな人生を送るかではなく、生命そのものの省察が本作ではちらちらと述べられている。どうもラージ・B・シェッティ監督は、生というのは、輪廻転生とはまた違った形で、永遠に続くものと考えているようだ。上に挙げた「私には明日はない。今日を生きている」という台詞もそうだし、ラストでは「(自分の死後も)人々の物語をずっと、密かに眺めていたい」という台詞(遺言?)にその考えが表れている。これは「今」のうちに永遠の生を観じるという、哲学的・宗教的な直観ではないだろうか。
・その考えのシンボルとして使われていたのが、アニケートがプレーラナーに贈った花だ。それはカンナダ語でナンディバッタル(Nandibattalu)という花で、英語ではCrape Jasmine、日本名では三友花というらしい(写真下)。アニケートがこの花を愛したのは、それが「ずっと咲き続ける。誰のためでもなく、自分のために」だからであり、彼はこの花に自分の生き様を重ね合わせていたようだ。

・本作の題名「Swathi Mutthina Male Haniye」は「真珠の雨粒」という意味だろう。物語の舞台がどこかは明言されていなかったが、西ガーツ山脈の山間の村であることは確か(ロケはウーティで行われたらしい)。題名のとおり、物語のほとんどの場面で雨が降っていたが、その雨が三友花に降り注ぐ映像で映画は終わっている。
・上に書いたメインテーマは雌雄に関係のない哲学的なテーマだが、もう一つ、本作には女性蔑視の問題もある。それはプレーラナーと夫サーガルの関係で、プレーラナーは家庭内でサーガルに顧みられず、活気を失い、死んだように生きていたが、アニケートとの交流を通して、次第に生気を取り戻していく。プレーラナーは緩和ケアカウンセラーとして、患者の「死への準備」を手伝う仕事をしていたが、その彼女さえ「死への準備」とはどんなことかを知らず、むしろ患者のアニケートから学んだようだった。

・本作はラミャ(ディヴィヤ・スパンダナ)がプロデュースをしており、その影響で女性の問題が強調されたのか、あるいはそもそもラージ・B・シェッティ監督のアイデアにあったことなのかは分からない。ちなみに、当初ラミャは本作に出演するつもり(おそらくプレーラナー役)だったらしいが、それは止めて、プロデューサーに徹している(映画中にカメオ出演さえしていなかった)。
・アニケートは例によってラージ・B・シェッティ監督自身が演じているが、パフォーマンスがどうと言うより、地とも言える風変わりな風貌が効いていた。
(写真下: しかし、髭を伸ばし、帽子をかぶったら、なかなかカッコいいぞ。)

・プレーラナーを演じたのはシリ・ラヴィクマールという人。全然知らない人だった。女優以外にRJやテレビアンカーもやっていたらしい。本作中では物静かな女性を演じていたが、実際には真逆な性格らしい。

◆ 完成度 : ★★★☆☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆
《 鑑賞データ 》
・鑑賞日 : 11月25日(土),公開第1週目
・映画館 : PVR (Global Mall),10:10のショー
・満席率 : 1割
・場内沸き度 : ☆☆☆☆☆
・英語字幕 : あり
《 参考ページ 》
・https://en.wikipedia.org/wiki/Swathi_Mutthina_Male_Haniye
・https://www.imdb.com/title/tt28075831/
この記事へのコメント
イセエビ
川縁長者
Garuda Gamana Vrishabha Vahanaとは全然違ってて、驚きました。ぜひご覧ください。
イセエビ
川縁長者
Tobyは私、見逃がしたんですよ。ネットではまだなんですか? ネットに上がったらご一報ください。
イセエビ
両方とも、IMDBで★8以上ついてま。から、少し待てば、出てくるとは思います。見かけたらお知らせしますよ。ラージ B.のバックナンバー?Ammachi Yemba Nenapu は あわよくば落とそうとしています。
イセエビ
川縁長者
ありがとうございます!
Tobyはラージ・B・シェッティもそうですが、チャイトラ・J・アーチャールさん(Sapta Sagaradaache Ello - Side Bで熱演してた)の評判が良いようなので、ぜひ観たいです。
イセエビ
これ、インド国内の方には見られないサイトですけどね。
念願のこの ロマンチックターミナルライフ映画 ようやく見られました。リクエストしたら、割と早く登場したようです。
色彩もきれいでした。
カーヴェリさんならではの インドでは当たり前の知識「四住期という生活の規範... 」という土台のお話は興味深かったです。
Tobyにも こちらにもあったダーティーでない珠玉の愛のシーンは なかなか印象に残るだろうと思います。
Raj B. 今後も見張っていこうと思いますよ。😁
川縁長者
おお、よかったですね。インドでも見れるのかな? ちょっと探ってみます。
ラージ・B・シェッティとか、カンナダの西海岸の作家たち、もっと日本でも注目されてほしいですね(すでに一部では高い評価を受けているが)。
川縁長者
イセエビ
Tobyの養女ジェニー役の女優さんは あまり話題にもならない感じの Mahira という元女諜報員の映画の中でもラージ B.シェッティと共演でしたよ。