【Aadujeevitham - The Goat Life】 (Malayalam)

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【Aadujeevitham - The Goat Life】 (2024 : Malayalam)
題名の意味 : 山羊の生活
映倫認証 : U/A
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 3月28日(木)
上映時間 : 2時間52分

監督 : Blessy
音楽 : A.R. Rahman
撮影 : Sunil K.S.
出演 : Prithviraj Sukumaran, K.R. Gokul, Amala Paul, Jimmy Jean-Louis, Talib Al Balushi, Rik Aby, Shobha Mohan, Robin Das, Nasar Karutheni, Baburaj Thiruvalla, Akef Najem, 他

《 プロット 》
 ナジーブ・ムハンマド(Prithviraj Sukumaran)とハキーム(K.R. Gokul)の二人のケーララ人がサウジアラビアの空港に降り立つ。ナジーブはスリークマール(Baburaj Thiruvalla)という男の仲介で、ムンバイでビザを取得していた。新婚で妊娠中の妻サイヌ(Amala Paul)と母(Shobha Mohan)を故郷ケーララ州の村に残しての出稼ぎであった。ナジーブもハキームもサウジアラビアでヘルパーとして働くことになっていた。ところが、空港に二人を受け入れるはずのエージェントが現れない。と、そこへ初老のアラブ人(Talib Al Balushi)が声をかけてくる。要領を得ない二人は、そのアラブ人に言われるままトラックの荷台に乗り、夜更けにどこかに運ばれる。まずハキームが「お前の職場だ」と言われ、降ろされる。次にナジーブが別の場所で降ろされる。翌朝、目覚めたナジーブは驚愕する。そこは砂漠の真っただ中の山羊飼いのファームだった。彼は親方(Rik Aby)に山羊やラクダの世話と監視を命じられるが、そんな仕事をさせられるとは聞いていなかった。ここから3年半に及ぶ、ナジーブの壮絶な生活が始まる、、。

・他の登場人物 : ヒンディー語を話す男(Robin Das),イブラヒーム・カーディリ(Jimmy Jean-Louis),ロールスロイスに乗る富豪(Akef Najem),クンニッカ(Nasar Karutheni)

《 コメント 》
・上のあらすじはいつになく短めに、ドラマが始まるところで止めた。ご存知のとおり、本作には原作となる同名の小説があり、そのWikipediaの項目に詳細なあらすじがあるので、そちらをご覧になっていただきたい(こちら)。

・原作小説はベンニャーミン(カタカナ表記は当てずっぽう)のベストセラーで、2008年に出版されたもの。小説自体がナジーム・ムハンマドという実在する人物のサウジアラビアでの受難に基づいているらしいが、事実と小説の間にどれだけの距離があるかは知らない。そして小説とこの映画の間の距離も分からないが、Wikipediaの記述を読む限り、出来事としては比較的忠実に小説をなぞっているようだ。

・ベンニャーミンの小説はさすがに映画人からも注目を集めていたようで、タミル映画の【Maryan】(13)もこの話に想を得たものらしい。マラヤーラム映画界のラール・ジョース監督も映画化を狙っていたようだ。

・そんなわけで、真打ち登場といった感じのこのブレッシ監督版「山羊の生活」だが、その出来栄えはと言えば、さすがに素晴らしい。十分感動できる。久々にA・R・ラフマーンの良い音楽も劇場で聴けて、満足した。

・特に、ちょっと行って帰って来るだけでも大変な砂漠での撮影、しかもコロナパンデミック期を挟んでの撮影は、もう冒険と言えるレベルのものだったろう(撮影はサウジアラビアではなく、ヨルダンやアルジェリアの砂漠で行われたらしい)。出演者たちも、例えばプリトヴィラージなどは、役作りのために体重を98キロまで増やし、それを67キロまで落としたらしい(そのために医者が付いていたという)。もう尊敬の念しかない。
 (写真下: ナジーブ役のプリトヴィラージの変容。)

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・ただ、そうしたフィジカルな艱難辛苦と技術的な質の高さは認めるにせよ、どこか私の心の中で「ちょっと待てよ」と囁くものがある。もしやこれも、私が【Raavanan】(10)や上に挙げた【Maryan】を評したときに使った、「作った側にのみ大きな満足感のある映画」の一つかな?という思いが頭をよぎる。

・特に、「監督のブレッシさんは何をしたのかな?」という疑問がある。もちろん、小説を映画として表現するのに苦労しただろう。しかしそれはあらゆる原作小説を映画化した映画に当てはまる苦労だろう。砂漠の美しさ、過酷さを表現するのにも頭を使ったと思う。しかしそれも【アラビアのロレンス】(62)が60年も前に完璧に行っていたこと。それよりも、ストーリー的/脚本的に、原作小説をなぞっただけにしか見えないのが辛い。

・私が一番気に食わない点は、エンディング。サウジアラビアの空港の場面で終わっていたが、これはやっぱり、【Perumazhakkalam】(04)のように、ナジーブが故郷に戻って、母や妻(そして子)と抱擁するシーンで終わるべきだったろう。それがインド映画というものじゃないか。なんであんな「大人」な終わり方にしたのかな?

・良かったと思った点は、緑と水の豊かなケーララ州の村と乾いた砂漠を対比的に描いた部分。また、主人公のナジーブとハキーム、それにイブラヒーム・カーディリに敬虔な性格を付与することにより、神の恩寵を信じる美しい映画になっていたこと。これにラフマーンの音楽が見事に合致していた。

・上で書いたとおり、プリトヴィラージの体重を31キロ増減させての熱演は見事だった。きっとこの映画はプリトヴィくんのナジーブ・ムハンマドを鑑賞するためのもの。

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・プリトヴィくんだけでなく、もう一人、ハキームを演じたK・R・ゴークルも大胆に体重を落としての熱演(こちら)。最後はもう干からびた爬虫類みたいになっていて、見るも哀れだった。

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・逆に、ぷっくりと体重を増したのが、ナジーブの妻サイヌ役のアマラ・ポール。妊娠している新妻の役だったが、リアルライフでも実際に妊娠したらしい(こちら)。

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・もう一人、イブラヒーム・カーディリはその驚異的な体の強さと献身的な振る舞いで、たぶん誰もが好きになるだろう。演じたのはJimmy Jean-Louisというハイチ出身の俳優で、本作のプロデューサーの1人でもある。

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《 オマケのひと言 》
・この映画を観て、イスラーム教がどういう宗教かということが分かったような気がした。【アラビアのロレンス】の中にあった、「アラブに生まれたということは、苦労しろという意味だ」という台詞を思い出した。

◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★☆☆
◆ 必見度 : ★★★☆☆

《 鑑賞データ 》
・鑑賞日 : 4月21日(日),公開第4週目
・映画館 : Cinepolis (Lulu Mall),18:30のショー
・満席率 : 2割
・場内沸き度 : ☆☆☆☆☆
・英語字幕 : あり

《 参考ページ 》
https://thegoatlifefilm.com/
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Goat_Life
https://www.imdb.com/title/tt5525650/

 

この記事へのコメント

  • イセエビ

    ご無沙汰してました。
    プリトヴィ君のファンとしては、(若干イスラム圏には抵抗があったものの)見なきゃと思う割に、ネット上で英語字幕あるものが出回るのがつい最近。ファンである理由。プリトヴィラージの顔、特に目はインドのラージプート絵画の王侯か美女かのようで、(つまりその絵画手法は意外と写実的であったりするのでしょう。日本の浮世絵の顔と同じく。)ついつい、目が行ってしまうことと、役柄選ばないらしく、いろいろ駄作も名作も見てきました。アマラ・ポールさんとは すれ違い気味に、アンダマン・ニコバルの島の映画Akashathinte Niramでちらっと共演してましたね。インドラジットの方が主役だから、弟は端役。
    いや、ゴートライフって、元々遊牧の生活している人たちの話かと思ってました。恐るべし、サウジの奴隷業者と奴隷に去れた者の脱走劇。
    寒暖の差はあれど、ドイツ映画のシベリアからの脱走・帰還映画「9000マイルの約束」とアルメニア映画「消えた声がその名を呼ぶ」なんてほぼ無関連に近いか、実話に基づく、脱走と長い無謀な旅路映画を同時に思い起こしました。
    ハゲタカ相手では インド的アクション対抗できませんね。(猛禽類の爪はナイフみたいな構造になっているそうですし。)インドのアクション役に立たないくらいのサイドワインダーの集団やら、プリトヴィ君お疲れさまです。体重の増減に関しては さすがに増量しても胴回りが胸囲を上回るマラヤーラム語圏では(映画内)「いるいる」的な体格にはなっていなかったのはさすが。インドの俳優さんたちの役作りの意気込みの体重の増減の幅は半端ではないですね。ボリウッドのアアミール・カーンとか女優のBhumi Pednekar がデブちゃんに変身したり、復旧したり。
    ケララ州では、ドバイに出稼ぎでリッチになっているような人が多いのかと思いきや、騙されてとんでもない目にあっている人たちも少なからずいるということにも、気づかされました。
    あと、罠にはまって逃げ出せない恐怖はマンムーティのホラーと同じ。(笑)
    37℃(ましでも34℃連続の2024年の日本の夏から、とりとめのないコメント書かせていただきました。
    2024年07月27日 14:22
  • 川縁長者

    イセエビさん
    相変わらずの面白いコメント、ありがとうございます。
    プリトヴィ君がお好きでしたか。確かにあの人は出演本数がやたら多く、駄作も多いですね。マラヤーラム映画のヒーローはみんなそんな感じですが。
    マンムーティのホラーって、もうネットで観れるんですか。あの舞台となった村出身のケーララ人がうちの会社にいて、協力するからぜひあれに日本語字幕を付けてくれとせがまれてます。
    2024年08月01日 22:58
  • イセエビ

    ’マンムーティのホラー’ で伝わってしまうところがwww
    "Bramayuga" のことですが、あれは早い時期に合法サイトでも胡散くさDLサイトでも、英語字幕で見られました。かなり前だったので、日記で確認すると(日記に書くほど陰惨だったのかも)3月19日に当たりに、私は観てますね。一種異様なタイプの映画だったし、モノクロ写真風に眺めても なかなか印象が強かったですね。
     私はインドに行ったことがありません。が ネットで初めて知り合ったインドの友人がケララ出身のforensic の医者で (事件やらその辺のことは話題にしてません!)川やヤシの木、水田地帯などの写真を送ってくれたので、日本で考える”デリー的”雑踏や風俗のステレオタイプのインドイメージを粉砕されて、留意するようになった州です。私事ですみません。m(__)m インドは広いし、地形も気候のゾーンも宗教も言語も植生も衣類や食文化も多様でしょうから、映画も少しは観る本数は減ってきたけれども、また飽かずに観ると思います。www
    2024年08月02日 19:18
  • 川縁長者

    イセエビさん
    ネットで初めて知り合ったインドの友人がケララ出身の「forensic の医者」だとは、珍しい話ですね。まだ交流が続いてるなら、ぜひ事件の裏話なども聞いてくださいw
    ケーララはやっぱりインドでは異彩を放ってますね。長らく行ってませんが、パーラッカード辺りにはまだ行ったことがないので、行ってみたいです。
    2024年08月04日 10:20
  • イセエビ

    かの法医学の先生は、一年に2,3度のメール交換で でもかれこれ、15年くらいのつきあいにはなります。ブランクのあった年もありました。コロナの騒ぎがあったころ、ネパールに講義に出張しておられたようです。事件の話とか法廷の話あるいは検死とかそういうたぐいのことを話題にしなかったのは、まずケララのようなのどかそうな田舎っぽいところで、事件が起きるとは思えなかったからです。(激しい思い込み。笑) でも マラヤーラム映画見ているうちに、実は忙しい職業なんじゃないかと思えるようになり、今度は遠慮で聞かないことにしたのです。(内心は好奇心ありますが。)
    2024年08月09日 21:04