【Bison Kaalamaadan】 (2025 : Tamil)
題名の意味 : バイソン・カーラマーダン
映倫認証 : UA16+
タ イ プ : オリジナル
ジャンル : ドラマ
公 開 日 : 10月17日(金)
上映時間 : 2時間48分
監督 : Mari Selvaraj
音楽 : Nivas K. Prasanna
撮影 : Ezhil Arasu K.
出演 : Dhruv Vikram, Pasupathy, Ameer, Lal, Rajisha Vijayan, Anupama Parameswaran, Madhankumar Dhakshinamoorthy, Puliyankulam Kannan, Subatra Robert, Anurag Arora, Haritha Mutharasan, Lenin Bharathi, Chandrasekar Koneru, K. Prapanjan, 他
《 プロット 》
1994年、広島で開催されている第12回アジア競技大会のカバディ競技で、インド代表チームは金メダルをかけてパキスタン代表チームと戦っていた。キッタン(Dhruv Vikram)はインド代表チームのメンバーだが、試合に出られないでいた。それはキッタン本人だけでなく、キッタンの出身村の人々をも落胆させていた。キッタンの脳裏に苦難に満ちた過去がよみがえる。
・・・
キッタンはタミル・ナードゥ州ティルネルウェーリのワナティ村に生まれた。母とは子供のころに死別し、父ヴェールサーミ(Pasupathy)と姉ラージ(Rajisha Vijayan)との3人暮らし。キッタンは子供のころからカバディに強い情熱を抱き、有名なカバディ選手になりたいと思っていたが、父は反対していた。それには訳があった。この地域は対立する二派が激しい暴力の応酬を繰り返していた。一派は地主のカンダサーミ(Lal)のグループで、もう一派はカンダサーミの横暴に立ち上がった低カースト者のグループで、パーンディヤラージャー(Ameer)がリーダーだった。キッタンの父ヴェールサーミもこの低カースト者のコミュニティーに属していた。ヴェールサーミ自身もかつてはカバディに情熱を燃やしていたが、友人で優秀なカバディ選手がこの二派の抗争に巻き込まれて殺害され、それが理由でキッタンがカバディのチームに入るのを禁じていた。だが、村の体育教師(Madhankumar Dhakshinamoorthy)がキッタンの身体能力とカバディ選手としての素質に気付き、彼を鼓舞する。
ある日、ヴェールサーミ一家がカーラマーダン寺院へ山羊を捧げに行こうとバスで移動中に、ちょっとしたことでカンダサーミの一派の連中と衝突し、ヴェールサーミもキッタンも暴行を受ける。これでヴェールサーミはいよいよキッタンにカバディはするなと懇願する。しかし、体育教師はキッタンをワナティ村のカバディチームでプレーさせようとヴェールサーミを説得する。だが、ワナティ村のカバディチームはスンダラム(Puliyankulam Kannan)が率いており、この人物はヴェールサーミと親類でありながら、過去の確執から仲が悪く、また、妹のラーニ(Anupama Parameswaran)がキッタンと恋仲であるのを知るに及んで、キッタンがチームに入るのを潔しとしなかった。それで、キッタンは村の2軍チームでプレーすることになり、そして見事な活躍で試合に勝つ。これで、村人たちはキッタンを村のチームに入れろと騒ぎ出し、スンダラムも拒み切れなくなる。
だが、そんな時にパーンディヤラージャーがカンダサーミの一派に爆弾で襲撃されるという事件が起きる。パーンディヤラージャーを支持する村人らは大騒ぎする。この騒ぎの中、ヴェールサーミとキッタンは山羊の一件で暴力沙汰となったカンダサーミの手下に襲撃され、キッタンは左腕を負傷する。
そんな逆境の中、姉ラージと体育教師はキッタンを激励する。キッタンはカバディを続けることになり、KBチームとの試合に出る。それはカンダサーミが所有しているチームだった。この試合でキッタンは左腕を負傷していながらも活躍し、勝利する。試合を観戦していたカンダサーミも感服し、キッタンを自分のチームに入れる。
しかし、そんな中で、今度はカンダサーミがパーンディヤラージャーに暗殺されそうになる。この騒動の中で、キッタンはカバディを止めたいと言い出す。カンダサーミはキッタンをより安全な環境でプレーさせるために、彼を別の強豪チームに入れることにする。
その後、マドラスでインド代表チームの選考会が行われる。キッタンも候補の1人だったが、選ばれない見通しだった。だかキッタンは選考会の試合で目覚ましい活躍をし、それがある女性の目に留まる。それはカバディ協会の委員カンディヤッパの娘プシュパ(Haritha Mutharasan)だった。彼女は父に強力にキッタンを推す。
しかしキッタンは選ばれなかった。政治的力学が働いたからであった。キッタンは失意のうちにワナティ村に戻る。ちょうどその頃、パーンディヤラージャーが暗殺される事件が起き、村中が大騒ぎになっていた。そんな中で、プシュパから電話がかかって来、キッタンが「インド代表チームに選ばれ、広島でのアジア競技大会に出場するために、すぐさまマドラスに来ること」と告げられる。キッタン一家は大急ぎで準備し、ヴェールサーミがバイクでキッタンを送ろうとするが、村は二派の抗争に加え、警察も動き出して、無事に脱出できそうな状況ではなかった、、。
・他の登場人物 : ウィン・ペーパー・ミルのコーチ(Lenin Bharathi),インド代表チームのコーチ(Anurag Arora),インド代表チームのキャプテン(K. Prapanjan),パキスタン代表チームのコーチ(Chandrasekar Koneru)
《 コメント 》
・マーリ・セルワラージ監督と言えば、インド国内でも評価が高く、日本の南インド映画ファンの間でも人気が高いのであるが、私は、と言えば、良い映画を撮っているという認識はあるが、描き出されたカースト差別の実情があまりにも痛く、ややひるむところがあり、結局、パー・ランジット監督のほうを好む、とどこかで書いたような気がする。ちなみに私は【Pariyerum Perumal】(18)と【Karnan】(21)しか観ていない。この新作【Bison Kaalamaadan】も特に「観るべきリスト」には入れていなかったが、カバディがテーマとなっていることを知り、観たくなった。
・Kabaddiというのはインドの国技であり、インド人にとって身近なスポーツだ。俊敏性、瞬発力、筋力、突進力、持久力が必要とされる、いわば複数人でやるレスリングのようなもので、非常に面白い。私もよくテレビで観ている(プレーはしないが)。これのカタカナ表記はいろいろな可能性があるが、ここでは日本で最も一般的な、Wikipediaの表題にもなっている「カバディ」を採ることにした。
・本作は実在するカバディ選手、南タミル出身で、アルジュナ賞受賞者のManathi Ganesanをモデルとしているらしい。このマナティ・ガネーサンという人はマーリ・セルワラージ監督と幼なじみだとどこかに書いてあった。映画中では1994年の広島で開催された第12回アジア競技大会の模様が白黒映像で描かれていたが、実際にこの大会でインド代表は金メダルを獲得しているし、映画と同様、パキスタンとの試合が保留試合となり、再試合が行われている。ただし、映画ではパキスタンとの試合に勝って、しかも僅差の逆転勝ちで金メダルを獲得したとなっているが、実際には「パキスタンに勝って金メダル」ということではなかったし、僅差でもなく、インドは楽勝していた(42対20)ようである(こちら)。Wikipediaの記事には、この時のインド代表チームに「Perumal Ganesan」という名前が挙がっているが、この人がManathi Ganesanだろう(Manathiはおそらく村の名前)。
・マーリ・セルワラージ監督の作品らしく、低カースト者(ダリト)への差別問題を土台に据え、それに逆境にもめげず(いや、「逆境にもめげず」などという月並みな表現では言い表せないほど過酷な境遇なのであるが)一人の若者がカバディで名を成すというスポーツドラマが乗っかかるという構成だった。このスポーツドラマという娯楽性のおかげで、マーリ・セルワラージ監督作品の中では最も娯楽色の強い映画になっているのではないだろうか(私は過去2作しか観ていないが)。すごく情熱的で、力強く、低カースト者の怨念のようなものも感じる映画だった。
・カースト差別という面では、本作ではカンダサーミ(Lal)らの上位カースト(おそらくNadar)とパーンディヤラージャー(Ameer)らの低カースト(おそらくDevendrakulam)の直接の抗争という形と、低カースト者のキッタン(Dhruv Vikram)が様々な局面で被る差別的行為という形で描かれている。この辺は日本人には分かりづらく、今回も「良い勉強になった」と言うに留めよう。
・ただ、本作が面白いと思ったのは、カンダサーミもパーンディヤラージャーも流血も辞さない残酷な人物と描かれる反面、人間性も感じられる善い人とも描かれている点だ。これはマーリ・セルワラージ監督のカースト差別は決して乗り越えられない壁ではないという信念が表明されているのかもしれないし、全然そういう意図ではないのかもしれない。
・カバディはポピュラーなスポーツであるだけに、映画の中でも登場することが多いが、カバディをメインプロットに据えた南インド映画となると、【Vennila Kabaddi Kuzhu】(09)ぐらいしか思い付かない(カンナダ映画にも【Kabaddi】という作品があったが)。意外に少ない。これはカバディがクリケットやサッカー、ホッケーほど絵的に面白くないからかもしれないが、確かにあのスポーツを映像として面白く見せるにはかなりの工夫が必要だろう。しかし、本作はそれをクリアしている。これは撮影と編集が上手かったからだろうが、もう一つ、カバディの試合に登場する選手の役に本物のカバディ選手を使ったからでもあるだろう。そのトップ的な人物が、インド代表チームのキャプテンを演じた人で、どこかで見た顔だと思っていたら、有名なプロのカバディ選手、K・プラバンジャンだった(写真下)。
・しかし、映画の風合いとしては、本作は【Vennila Kabaddi Kuzhu】よりも、パー・ランジット監督のボクシング映画【Sarpatta Parambarai】(21)に近いと思った。
・「スポーツドラマ」として見た場合、「カースト差別」のプロットが激烈すぎたため、最後にキッタンがアジア競技大会で成功を収めるというプロットが相対的に霞んでしまったようにも感じられた。しかし、マーリ・セルワラージ監督としてはどちらのプロットもバランスよく力を入れたかったのだろうから、これは仕方がないか。そこで割を食らったのがキッタンとラーニ(Anupama Parameswaran)のロマンスっぽい展開で、これは丸ごとなくてもいいように感じられた。この映画のために2か月も村に入ってフィールドワークをしたというアヌパマ・パラメーシュワランが気の毒だった。
・分かりにくかった点は、まず題名の「Bison Kaalamaadan」の「Kaalamaadan」からして分からない。バイソンのタミル語がKaalamaadanだという説明もあったが、そもそもバイソンはインドにいないだろう(いるの?)。ある人は「雄牛」のことだと説明してくれたが、バイソンなら牛じゃなく、水牛になるんじゃないかな? とにかく、映画の中ではキッタンの地方のローカルな神だとされ、カーラマーダン寺院というのもあるようだった。
・キッタンの父ヴェールサーミ(Pasupathy)が二派の抗争を理由にキッタンにカバディをさせないようにした理由(ロジック)もよく分からなかった。ここは重要なので、きちんと脚本化されているはずだが、きっと私が見損ねている。
・ヴェールサーミは上述のカーラマーダン神も崇拝しつつ、家の神(?)としてヴァラーハを崇拝しているのもよく分からないことだった。何か儀式のようなことも行っていて、それがトゥルナードゥのブータ儀礼のようにトランス状態になるもので、ああいう儀礼はタミル・ナードゥ州の南端(ティルネルウェーリやトゥートゥクディ)でも行われるのか?
・マーリ・セルワラージ監督は映画中にシンボル(主に動物)を使うことでも知られているが、本作もそうだった。本作では上述のカーラマーダンの頭蓋骨、山羊、それに動物ではないがナイフなどがシンボルに使われていたように思う。
(写真下: 私が鑑賞した映画館に飾られていたカーラマーダンの頭蓋骨。)
・主人公キッタンを演じたドゥルヴ・ヴィクラムは、ご存知のとおり、ヴィクラムの息子。初めて見た。やはり親父さんとよく似ている。本作の役柄はやや特殊なので、これで演技の技量は推し量れないが、本物のクリケット選手に混じっても全然遜色のない動きをしていたところから、身体能力は良いと見た。体格も立派なので、カーキーを着た警官役もできそう。これからも楽しみだ。
(写真下: 親父との比較画像を作ろうと思ったが、すでに作っている人がいたので、そのまま使わせてもらう。)
・キッタンの父ヴェールサーミ役のパシュパティが素晴らしい。差別に耐え、抗しながら生きる力強さに加え、様々な情念を完璧に表現している。上述した、何か宗教的な儀礼を演じているシーンも緊張感のあるものだった。
・本作の脇役陣は総じて存在感を発揮している。二派のリーダーを演じたラール(カンダサーミ役)とアミール・スルターン(パーンディヤラージャー役)も例外ではない。ラールはエレガントな面も見せていたし、農村差別映画の先駆的作品とも言える【Paruthiveeran】(07)を撮ったアミールもあの強面はむしろ眼福だった(久々に見たが)。
・体育教師役のマダンクマール・ダクシナムールティも光っていた。この人はどこかで見ているはずだが、記憶にない。この体育教師がキッタンに直接カバディの指導をするシーンはなかったが、キッタンと父やカンダサーミとの間に入って、調停役をこなしていた。低カースト者が成功するのは、こういう人物がいたればこそだろう。
・その反面、どうしても女優陣は影が薄くなる。上述したとおり、キッタンの恋人ラーニ役のアヌパマ・パラメーシュワラン(写真下・右)は、ヒロイン女優であることを捨てたかのようなガチな農村娘を演じていて、良かったと思うが、なにせ出番が限られていた。逆に、キッタンの姉ラージ役のラジシャー・ヴィジャヤン(同・左)は、程よい出番と役回りを与えられていて、すごく良かった(この人は【Karnan】にも出演していた)。
《 オマケのひと言 》
・キッタンが電話で代表チームに選ばれ、広島へ行くから、すぐマドラスへ来いと告げられたとき、父ヴェールサーミがひょいとパスポートを出したのには驚いた。田舎の低カースト者で、特に高等教育を受けているようにも見えないキッタンが、パスポートを持っていたというのはリアリティーがないような、、。
◆ 完成度 : ★★★★☆
◆ 満足度 : ★★★★☆
◆ 必見度 : ★★★★☆
《 鑑賞データ 》
・鑑賞日 : 10月25日(土),公開第2週目
・映画館 : PVR (Superplex Forum Mall),13:05のショー
・満席率 : 6割
・場内沸き度 : ★★★☆☆
・英語字幕 : あり
《 参考ページ 》
・https://en.wikipedia.org/wiki/Bison_Kaalamaadan
・https://www.imdb.com/title/tt15097358/
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